house m
2023.10.25
・ 選択の上にある一つの自分と世界
さまざまな選んだことと選ばなかったことのなりゆきで、今の自分そして世界があるのだと時々気づかされる。
親戚の影響で始めたクラブ活動、名前のカッコよさで選んだ高校、いつもは気にならない朝の星占いをなぜか見てしまって乗り遅れた一本遅い電車。
必然/偶然に関係なく”選ばなかったがあり得た世界”が、今この世界と並走して無数に存在しているのじゃないかと思うと、ちょっとばかり怖くなる。
初老の一人暮らしの改修。
クライアントの人柄が染み出るような、明るく楽しく快適で安全な住まいの在り方が求められた。
室内の仕上げはラワン合板を主として色彩と遊び心に溢れた内装とし、外装は色鮮やかな赤を用い、新たに設けた増築部分は屋根の見付けを太くしたり曲線を用いるなど、にぎやかな演出を散りばめた。
・ドコモダケと野良猫
引き渡し後に様子を見に伺うと、収納扉の戸当たりとして「ドコモダケのキーホルダー」がクライアントの手によって設置されていた。
扉を開けると壁と扉の間に無抵抗に挟まれるといった悲しい結末が繰り返されるそのしつらえが、不思議とインテリアと心地よく馴染んでいた。
おそらくこの改修が行われなかったら、このキーホルダーはタンスの奥に眠ったままだっただろう。
またある日、クライアントから一枚の写真が届いた。
なんの意味も用途もなく、なんとなく良さそうといった理由(にもならない理由)で開けた玄関先の円形開口部に、野良猫がすっぽりと座ってた。
建築という行為によって”あり得た”世界と”あり得なかった”世界の秩序が入り乱れ、そこにクライアントの人間性が働きかけた結果、幸せに、そして愉快に再統合されていく姿を目にした。
改めて建築の楽しさを感じると同時に、選んだ(設計した)世界よりも、しなかった世界に無限に広がる(広がっていた)伸びやかな可能態の豊かさとと、それでも設計しなければならないこの職業の責任の大きさを感じた、とても印象的なプロジェクトであった。
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*前職設計事務所(LIGHTHOUSE設計)での担当
住宅改修
2023